宮本常一先生と話をしている。
稜線にかかる空は藍色でもう夜だ。
今夜は20：00から寄合いがある。 ＜丑三鍋＞
やつらの無邪気なツラを見てみろよ、兄弟。
ああいうのが長生きするタイプってヤツだぜ、面白くねぇ。
俺たちの出番だ・・・。
プレイした人は感じたかもしれませんが、三つのエピソードを上手く絡めて一つにして、新しく作ったらよさげでありますよね。
足野町の廃屋で発見された手記
５．11(月)
最初は空耳だと思った。
ここひと月は仕事も順調で、叔父の遺産の整理もやっと一段落ついた所だ。
たとえ疲労を感じるとしても、もっと心地よい疲労のはずだ。
BSハタチ ドキ ドキ BSハタチ ドキドッキ BS二十歳 ドキ ドキ
BSハタチ どきどっき BSはたち ドキ ド(ッ)キ BSハタチ ドキドキキ
TVか。ふと、彼女の面影がよぎる。
デイジーはTVが好きだった。正確には番組の格付けをするのが好きだったのか。
彼女がよくやったのは人生相談などの番組で、相談内容ではなく、そのカウンセラーを批評すること。
NHKの午後の番組『ちょっと聞いておくんなまし』は彼女のおきにいりだった。
私もそれに自分の意見をいったりして・・・。いや、もう３ヶ月も前のことだ・・・。
BSハタチ ドキ ドキ BSハタチ ドキドッキ BS二十歳 ドキ ドキキ
BSハタチ ドキドッキ どきどきき BSはたち ドキ ド(ッ)キ
それにしてもよくくり返されるCMだ。少し不快か…。
５．13(水)
やはり何かがおかしい。体は疲れていないはずなのに絶えず切迫感に悩まされる。
仕事に身が入らず、残りを部下にゆだねてしまった。
この会社をおこして以来、常にリーダーとしてビジネスの先頭に立つことが私の矜持だったのだが。
秘書のクレアは私に休養をすすめてくれた。狼狽が表情にでていたのかもしれない・・・。
５．14(木)
朝クレアに電話をしてしばらく会社を休むことにした。
家でできることも私にはたくさんあるのだ。
昼食後、気晴らしに自宅のデッキからサイバースペースにジャックインする。
あきらかに仕事以外でこの電子の海に入るのは何年ぶりだろう。
ましてや馬鹿な新政府によって厳重に管理・プロテクトされてしまった、あの玉石混交な極彩色のデータの海をたゆたっていると、何か創業前の若いころの活力が蘇ってくる感じがする。
しかし、またあれが聞こえた。
BSハタチ ドキ ドキ BSハタチ ドキドッキ BS二十歳 ドキ ドキ
BSハタチ ドキドキき BSはたち ドキ ド(ッ)キ BSハタチ どきどきキ
今度はTVではなく、21世紀初頭のブロガアーキテクチャの残骸。
エトルリアのレリーフのようにひどく磨耗しているが、読める。
てか、あれだけ流されると流石にウザくなるというか。。。
あれ、あと十年たったらBS三十路♪とかやる勇気あるのか。
今から250年以上前のデータだ。
あのジングルは原始電脳時代から存在しているというのか・・・。20歳のままで。
私を圧迫する不安感がふいに実体をもったような感覚に襲われた。
今日はもうこの海からあがろう。
ふと気になった。先程のデータはごく最近にも再読された跡がある…。
５．15(金)
今日は朝からジャックインする。太古からのデータが堆積するあの海へ。
もちろん例のジングルの正体を探りにいくためだ。
実際、部屋の中にいるとあの声が耐えがたい音量でせまって来る気がする。
ＴVはつけて、いない筈なのだが。
やはり今日も数世紀前の遺物の中で、あれにまつわる痕跡を幾つか見つけることができた。
中でも収穫だったのが、当時この存在にまつわるフォーラムがあったようなのだ。
以下、解読できた部分のみを記す。
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142：最近よくやる「BSハタチ・ドキドッキ」ってジングル耳障りなんだけど。
ウザｲを通り越して殺意が湧く。寝た子が起きるっていうか、
正直嫌がってるし
145：↑142に子供はいません。ていうか彼女もいません。
146：＞145
159：画面出て来る娘はｶﾜｲｲよ~
161：ほとんどブスばっかだろ！！！
だいたいあのニヤケ笑いがウザ過ぎる
162：↑岸田今日子はｵﾚの嫁
170：CMでてる俳優は罪無い。ウザいのはアレ作った椰子。
200： ＞170 制作者の意図したところを演じれるんだから、
ムカツクポテンシャルは持ってるでしょ
205：声がムカつくって話しじゃないの？？
248：非モテの集会はココでつか?
280：“CM作ったやつはぜったい自宅に緑のカーテンをやっている”
に500ウォン
281：非モテの集会はココでつか?
303：俺は非モテじゃないので行動してきた。さっきNHKに抗議の
メール出しといたよ。
受信料払ってる身としては即刻中止を希望すると言ってきた。
319：303は松平さんに蹴り殺されました＞＜； ﾅﾑ～
341：なんか、放送の空き時間できたら是が非でもねじ込んで
る感じだな。
音楽みたいに流したぶんだけ金でも入るのか、
アイドル派遣してるスポンサーから。
350：303氏どうなったの?
352：303は中島義道です
355：303は中島らもです
397：303です。幸いにもCMのディレクター様から直接メールをいただけました。
以下全文記載します。
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398：＞397 読めない
408：ジングルをくり返すのは自分たちの番組に自信のあるあらわれ。
NHKは最近おもしろいとおもう。
415：BSハタチ ドキドッキ♪
416：モニタの前で批判するだけのヤツより100倍ましな実験的面白さ
418：BSハタチ どきんちゃん（＠～＠）
422：制作・・・煮谷琉螺徒徹父
444：もう海に帰ります
445：BSはたち・いあ・いあ・えびさわ・うぐうぐ
449：もう海に帰ります
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解読できるのはここまでだった。
制作者からのメールは、既に滅亡したコードが使われていてエンコードできない。
しかし、このデータの遺構にも新しく再読された跡が残っていた。
今度はその形がはっきりと分かる。間隔の広い水掻きのような痕。
また頭の中にあの声が聞こえてくる。私も海に帰らねばならない。
５．16(土)
二日続けてのジャックイン。
徹夜のダイブも、まるで若いころの体力が戻ったように不思議と疲労は感じない。
若いころ・・・いや、もっと太古の感覚というべきか・・・。
きょう探索したのは、比較的新しい階層。
そこからも、あの声が聞こえてくるからだ。
このデータの層は、新政府が削除したごく最近のデータが沢山ある。
そして多少の不快さは残るものの、もうあのジングルに圧迫されるような感じはなくなっていた。
どきどきき ＢＳ はすたあ どきどっき
最初に目に入ったのは何かのメモ。
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こけしMEMO
今日は、こんなNHK会長（or元会長）は嫌だ
――いいんですか!?そんなネタやって?
いいんです。精力絶倫ですから。この、元会長が入ってるところがいいでしょ？
――ワタシ、知りませんよ(笑
逝きます！こんなNHK会長（or元会長）は嫌だ！
何度注意しても「BSハタチ、ドキドッキ♪」のジングルを、
「BSハタチ、どきんどきん♪」と言う!
――会長、NHK見てないんじゃないですかそもそも。。。
それは言っちゃいけない(笑。ハイつぎ、こんなNHK会長（or元会長）は嫌だ！
「BSハタチ、ドキドッキ♪」に出てくる娘を見て、
「この娘，幾らだ？」と出演料ではなく、ワンプレイ料金を聞いてくる。
――今クレームの電話が大変だと思うんですが・・・
来週でこの番組も終わりらしいんで(笑、気にしないように。つぎ、
「BSハタチ、ドキドッキ♪」に自分の孫を入れようとした。
――いや、名前はすぐバレちゃいますよ(笑。
実は、あのジングルの一番ブスな娘が会長の孫だ。
――違いますww！もう本当にスミマセン。あそこ出てるだけでも大したもんですから、ふつう。
最後！こんなNHK会長（or元会長）は嫌だ！
視聴率でライバル視しているTV局がMXテレビだ。
――ｗｗありえません！
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昔の有名な戯曲の形を採っているが、これはごく最近書かれたものだ。
大抵こういった形式をとるのは、データの海に半ば溺れかけのジャンキーの類が多い。これもそうだろう。
とにかく重要なのは、これが新政府樹立後のデータだったとすれば、政府はあのジングルにまつわる批判を積極的に取り締まっているということになる。
BSハタチ ドキ ドキ BSハタチ ドキドッキ BS二十歳 ドキ ドキキ
数時間後、さらに上層で、それは250年前と同じフォーラムの形態だったが、決定的な証拠を見つけた。
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10：BS二十歳どきどき～
15：アイドルは好きじゃない。桜井アナとか内藤裕子アナとか、あと
森田美由紀様とかがやってくれたら折れDVDレコーダ買ってくるワ
18：＞15 島さんじゃダメなの？
41：ハタチって、年とりすぎなんですが。。。その半分でイイ
48：非モテの集会はココでつか?
49：こないだ、あのジングルの後、いきなり藤沢武さんの顔が出てきて
ニュース読んだんでビックリした。
50：藤沢さんは聞きやすい。悪口言うなカス↑
52：50がカス。49氏が言ってるのは、糞ジングルが番宣の先頭に
流されたのではなく、それ単独で放送されたって事実。
53：それロングバージョンのヤツじゃね？
55：＞53 ロングバージョンなんてあるの?？
61：どっき♪どっき♪いろんなものを やってき～た♪
65：おまいら暇だな★
74： 49：違うよ。普通の短いジングルのヤツ。
あれ以降、単独のは見ないけど俺が見たのは事実。
＞50 ちなみに漏れも藤沢さんはすごく聞きやすいと思ってる。
そこんとこ履き違えないでね。
それと、制作サイドにメールしといた。いい加減やめなさいと(笑。
75：非モテの集会はココでつか?
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ふ、藤沢さん…。私もよくニュースでみかける人だ。
もう間違いない。政府はあの声・・・あのジングルへの言説を全て取り締まろうとしている。
しかし、何故。
今日発見したフォーラムは比較的こころある人達のようにも思える。
急いで海から出て、あの声の謎を探らねばならない。
なぜだか私はもうあれを聞いても不安にも不快にもならなくなってきた。
今ならTVの前で面と向かってじっくり調べられるだろう。
突然、現実世界に浮上しようとした私の足をなにものかが掴んだ。
必死にもがいて振りほどいたが、その物体は私が持っていた収集データを奪うと物凄いスピードではるか深海に潜っていった。
最初は政府のデッカーかと思ったが、あんなスピードの腕利きは今まで見たことが無い。
掴まれた足首に、ヌルりとした感触だけが残った。
５．17(日)
BSハタチ ドキ ドキ BSハタチ ドキドッキ BS二十歳 ドキ ドキキ
BSハタチ ドキドッキ どきどきき BSはたち ドキ ド(ッ)キ
現実世界に戻ってきた私に、あのジングルが心地良く出迎えてくれた。
TVはついていただろうか。
もう3日寝ていないが不思議と五体に力がみなぎる。
ふと書斎にあるパブミラーに目が止まった。私とデイジーの結婚記念にクレアが贈ってくれたものだ。
少し顔が太ったか?私は自分の頬から顎にかけて両手を滑らせた。
小首をかしげる。ややエラが張ったように感じた。掌の感覚がいつもと違うせいだろう。
ぶっとおしの仕事のあとは、いつもこうだったかもしれない。
考えてみるとこの恰好はBSハタチ ドキドキのポーズだ！
若いころサイバースペースで仕事を終えたあとの、あの血がたぎるような感覚！
明日は仕事に戻れるだろう。素晴らしい充実感だ！
５．18(月)
昨夜、夢を見た。灰色のデータの海で踊り泳ぐ夢を。
夢の中で私は見知らぬモノたちとBSハタチ ドキドッキだった。
全てがBSハタチだ。そこでは何者にも相対化されない、NHK的な毅さ＜フォルス＞に溢れている。
見ろ！民放がカスのようだ。私がNHKだ！BSはたちだ！！
私は力強くベッドから飛び起きた。ネットりとした粘液が糸を引いた。
クレアに電話をして、オフィスに行く途中で私を車で迎えに来るように言う。
私の声を聞いて彼女は少し緊張していたようだが、まあいい。多分、その車に乗ることはないのだから・・・。
3メートル離れたパブミラーを見た。
変態は決定的だった。私は二度と閉じることの無い目を手に入れていた。
これで、大好きなデータの海を存分に楽しむことができるだろう。
口をあけて笑ったはずだが、首の横からシュッと息が漏れるだけだった。
玄関の呼び鈴が鳴る。クレアだ。
白いペンキを塗り終えたばかりの螺旋階段を、私はペタペタと飛ぶように降りた。
結婚後デイジーは、彼女、クレアが朝、私を迎えにくることをひどくきらった。
だからこの３年、私はわざわざ自分の車で出勤してやったのだ。
それなのに。馬鹿な女だ。思えば、NHKにはNHKらしい番組を作って欲しいなどとよくぬかしていたっけ。 NHKらしいだと・・・つくづく馬鹿な女だ！
階段を降りきって一足飛びに玄関を越えると、私は金メッキのドアノブを勢いよく回した。
「やぁ！おかえりクレア！新しい私を覚えていてくれたかい？」
彼女が声を出す時間を与えずに扉の内側に抱き込む。
もっとも私の姿を見た瞬間に、彼女は気を失ってしまったようだった。
クレアが目を覚まし予想通りの抵抗を示しても、私は彼女がするままにまかせた。全ての扉には鍵がかけてあるのだ。
肩にペーパーナイフが刺さったが大した痛みではない。
後は泣きじゃくる彼女に巻きつきなだめ、そして説得するのは簡単な作業だ。
もともとクレアは私に気があったし、そして私もそうだったから。
変形した私の口から彼女の耳に溢れるばかりのBS二十歳を流し込む。
かすかに光っていたのは、昨年のクリスマスプレゼントに私が贈ったピアスだろう。
もう邪魔なものは何もない。彼女は目を開けたまま私に身をあずけている。
NHKにたてつく馬鹿な女房も、馬鹿なブロガーも無しだ！
二度と帰ることのないジャック=イン。灰色の海。永遠の享楽への回帰。
いあいあ えびさわ うぐうぐ！
最後にこの価値のない末法民放世界をチラリと見渡してみた。
偉大なるBSはたちの声にあと押しされて、心ある人達の歌声が聞こえる。
最近、子供がBSハタチのポーズを真似する(家族愛♪
今NHK面白いっすよ(エコ助
やる気・元気・ドキドキキ！(ノブ
・・・素晴らしい変化だ。いずれ世界が入れ替わるだろう。
どっき、どっき、いろんなものをやってき～た
どっき、どっき、 BS二十歳 ドキ ドキき
海の中ではたくさんの仲間が私たちを出迎えてくれた。
あのジングルのでぃれくたーは精悍なる“煮ゃ琉螺徒徹父”師。
いまでもうみほたるの厠から日本を侵食し続けているという・・・。
100年以上前に滅んだ集金オジサンが群れをなして私の横を泳いでいく。
偉大な海神を迎えるために海底に祭壇を準備しているのはﾎﾘｦアナだ！
フリーになったんじゃなかったのか！！
クレアが私の肩にそっと触れた。もう恐怖の色はない。
「さぁ、クレア。僕たちはNHK的に自由だ！どこへでも行きたいところを言ってごらんよ」
「ええ、わたし、ざわざわ森に行ってみたいわ！」
プラチナブロンドの髪を電子の波に揺らして、彼女の愛らしい口元が微笑む。
「いこう、ざわざわ森へ！！」
彼女を抱き寄せて、僕たちはハタチの海を泳ぎだした。
ざわざわ森はもっとも深い層にある。あのうす暗い遺跡の割れ目が海溝へ抜ける近道のはずだ。
もぐっていく僕たちの後ろではBSハタチのジングルが、まだ荘厳な音色を海中に響かせていた。
Ｃ・Ａ・すミソ
『足野町の廃屋で発見された手記』
参考文献：http://kojare.blog71.fc2.com/blog-entry-1359.html
http://imai-hiroshi.at.webry.info/200905/article_27.html
http://tv.sl.lcomi.ne.jp/archives/article/43895.html
｢The Seal of R'lyeh｣ August Derleth (ルルイエの印)
｢Terror in Cut-Throat Cove｣ Robert Bloch (首切り入り江の恐怖)
｢Notebook Found in a Deserted House｣ Robert Bloch (無人の家で
発見された手記)
http://spysee.jp/%E8%97%A4%E6%B2%A2%E6%AD%A6
｢冷酷な誘惑〈2〉美しい標的｣ Linda Howard (ハーレクイン・プレ
ゼンツ作家シリーズ別冊)
しかし上巻だけで下巻がない。。。MU～・・・。
（右画像は出だしの一ページ目です。）